モデルベースを使った簡単な事例対応
様々な分野での利用が進むモデルベース開発
自動運転や電気自動車などの普及が進む中、今や自動車開発に不可欠な技術となっているモデルベース開発(MBD)。自動車開発だけでなく、航空宇宙、ロボット、医療機器など様々な分野での利用も増えています。
ここでは、モデルベース開発とモデルの適用事例などを簡単に紹介します。
目次
SUPERVISOR
監修者情報
JapanMBD推進センター
sponsored by AZAPAエンジニアリング株式会社

モデルベース開発の
利点や実装方法などを
産業界や研究機関に提供する
利点や実装方法などを
産業界や研究機関に提供する
「一般社団法人MBD推進センター」とは、モデルベース開発は経済産業省の主導で進められてきた普及への取り組みの延長線上にある団体です。トヨタや日産、マツダなど多くの企業が参加し、MBD開発の共同研究がおこなわれています。

MBD推進センター会員
市原 純一氏
市原 純一氏
自動車技術会のモデル流通検討委員の幹事を行いながら、制御開発、モデル開発を行う。MBD推進センターのガイドラインや、準拠モデルの開発にも携わる。
【所属・役職など】
・AZAPA株式会社 取締役
・ MBD推進センター 会員
・モデルベース大学 講師
ページ監修:MBD推進センター会員 市原純一氏
MBD推進センターは経済産業省の主導で進められてきたMBDの普及が主要な活動であり、MBDの利点や実装方法に関する情報を産業界や研究機関に提供し、MBDの普及を推進しています。その会員である市原氏に、当ページの監修を依頼しています。
V字プロセスで進むモデルベース開発
モデルベース開発はV字プロセスに沿って行われ、V字プロセスの左側はモデルとシミュレーションを机上で行う設計領域、右側は設計された機能の検証をハードウェアで行う検証領域となります。
V字プロセスのフェイズにはMILS、SILS、HILSなどがあり、開発時にはV字プロセスに沿って最適なフェイズを選ぶ必要があります。
モデルベース開発でのモデル適用事例
モデルベース開発のモデルは、大きく分けると制御(コントローラ)モデルと制御対象(プラント)モデルになり、制御する側と制御される側の関係になります。
たとえば、エンジンの場合、プラントであるエンジンは単体では動くことができず、コントローラであるエンジンECU(Electronic Control Unit)の指定する燃料噴射量、点火時期によって動きます。
開発初期段階に適用するMILS
MILS(Model In the Loop Simulation)はループシミュレーションのモデルで、制御対象(プラント)モデルと制御(コントローラ)モデルのループ構造を指します。
エンジン開発のMILS適用事例
エンジン開発のMILSでは、エンジンのプラントモデルとエンジンを制御するコントローラモデルを作り、モデル間の入出力であるインターフェースである目標燃料噴射量、目標回転数などを決めます。
コントローラモデルが目標燃料噴射量、目標回転数を指定すると、プラントモデルはトルク、筒内の温度、圧力などを計算します。計算された値はコントローラモデルにフィードバックされますが、目標値に達していない場合は、回転数などを増やすなどして目標値に近づけます。
MILSが開発初期段階で有効な理由
MILSを開発初期段階で適用することで、机上で基本的な制御ロジックや車両全体の最適なシステム設計を考えることができます。
開発中盤に適用するSILS
SILS (Software In the Loop Simulation ) は、C言語などプログラムで書かれたコントローラモデルとモデルで書かれたモデルとのループシミュレーションで、MILSの次フェイズとして適用されます。
MILSで作られた制御ロジックはC言語などのプログラミング言語でプログラミングされます。その後、SILSを通して作られた制御コードで目的とする制御ができているかどうか確認します。
SILSの役割
作られた制御コードに記述ミスがないか、状態遷移が正しいかなどのバグ検出に利用されます。SILSの目的は正しく動作することと、軽い負荷で高速演算できることなので、SILSとMILSで同じプラントモデルを使うことが多いです。
開発終盤に適用するHILS
HILS(Hardware In the Loop Simulation)は、実機のコントローラ(ECU)とプラントモデルを結合したループシミュレーションです。実機を使った検証を行うHILSは、V字プロセス右側の検証プロセスで使用されます。
実機ECUとモデルとのインターフェースは電子回路となります。そのためMILSやHILSのようにツール内で接続するのではなく、ハード的にECU内の入出力回路と結合してループを作ります。
HILSに要求される機能
HILSでは、実際のプラントを制御しているようにECUを動かす「リアルタイムシミュレーション」が要求されます。そのため、高速演算ができる高性能計算機に、プラントモデルを構築する必要があります。
HILSの用途
HILSの代表的な用途は、実機では検証が難しいケースの検証です。実機のエンジンと実機のECUを結合して故障診断をするには、故意にエンジンを故障させる必要があります。しかし、膨大なケースを想定してエンジンを故障させるのは非効率的です。そこで、プラントモデルで故障を起こし、ECUが正常に故障を判断、検知・制御するかどうか、検証します。
MBDにおける4種類のモデル
モデルベース開発のモデルはコントローラモデルとプラントモデルに分けられますが、さらに、それぞれがブラックボックス(統計)モデルとホワイトボックス(物理)モデルに分けられます。
つまり、コントローラ/統計モデル、コントローラ/物理モデル、プラント/統計モデル、プラント/物理モデルの4種類のモデルになります。
統計モデル手法
データを統計的に処理して作られたモデルで、得られたデータの範囲内でモデル化します。コンパクトカーの走行で得た計測データは重量やタイヤサイズの異なるSUV車には適用できないなど、データ範囲外の精度は保証されません。
線形回帰分析
ある変数の値(説明変数)に基づいて関連する変数の値(目的変数)を予測する分析手法です。
重回帰分析
線形回帰分析の応用で、複数の説明変数で1つの目的変数を説明する分析手法です。
AI(ディープラーニング・機械学習)
線形回帰分析や重回帰分析のように人間がデータ分析するのではなく、機械(計算機)が対象データの特徴をモデル化します。
物理モデル
オームの法則や運動方程式などの物理法則に従うように作られたモデルで、力学、電気、熱、流体という4つの領域で構成されます。統計モデルとは反対に、モデル化できている範囲内なら任意のパラメータへの変更が可能です。
物理モデルでは、重量やタイヤサイズを物理モデルに設定しておけば、パラメータを変更するだけでコンパクトカーからSUV車まで1つのモデルでカバーすることができます。