MBDとCAEとの違い
CAEとMBDの違い
CAEとMBDは、どちらもコンピュータ上でシミュレートして検証をおこなう手法ですが、対象の規模が異なります。理想的な開発フローは大きなシステム性能目標をモデルベース開発で決めてから、CAEで各フェーズの詳細設計を行うという形になります。
MBDは開発初期段階に効果的
MBDの場合、エンジンシステムや車両製造システムなどシステム全体のモデル化を行い、作成したモデルを活用して製品妥当性を検証します。そのためMBDは開発初期段階で効果が発揮されます。
CAEは開発の各プロセスでの詳細検討に利用する
CAEは物体に温度や振動など変化を加えて詳細にシミュレーションするなど、開発プロセスで、より詳細なシミュレートを行うために利用されます。例えば、バッテリの熱の広がり方やエンジンのシリンダー内の空気の流れ方などを詳細にシミュレートできます。
CAE(Computer Aided Engineering)とは
CAE(Computer Aided Engineering)とはコンピュータを利用して設計や分析を支援する技術のことで、設計初期から詳細設計、検証、製造まで、さまざまな開発プロセスのフェーズでの適用が可能です。CAEを活用することで試作や実験をしなくても、さまざまなシミュレーションをコンピュータ上で行うことができます。
CAEの適用分野
以下のような分野にCAEを適用することで製品の性能予測が可能になり、設計最適化、問題の洗い出し、改善策検討などが効率的に行えます。
構造解析
構造解析(Structual Analysis)は、物体や構造物に荷重や負荷をかけた時に発生する変形や応力(内力)の程度を計算・数値化して評価・分析を行う解析手法です。
流体解析
流体解析(Fluid Analysis)は液体、気体の流れをシミュレートして構造物や物体に対する圧力や熱応力、温度分布などの影響を確認する解析手法です。
電磁界解析
電磁界解析(Electromagnetic Analysis)は、回路や電気機器の電磁界をシミュレートすることで電界強度や磁束密度などを評価する解析手法です。
熱解析
熱解析(Thermal Analysis)は、対象物内部に熱が伝わった時の熱放射や熱伝導などの熱現象をシミュレートし、熱応力や温度分布などを評価する解析手法です。
CAEのメリット・デメリット
メリット
コストを削減できる
実機ではなくコンピュータ上でのシミュレーションを行えるので、試作品製作や物理的なテストが不要になり、開発時間やコストの削減が期待できます。
難しいシミュレーションが可能となる
電磁波の伝わりや広がり、材料内部の磁束の流れや応力などの確認、1000度など極限状態での実験、真空・無重力状態、衝突や高温など危険を伴う実験など再現が困難な環境や極限状態でのシミュレーションができます。
問題を早期に発見できる
CAEを使うことで設計段階に問題やリスクを特定し改善策を検討できるので、後段階での問題発生を軽減できます。
開発期間を短縮できる
実験と試作を繰り返す必要がなく、コンピュータ上でシミュレーションできるので検証期間を短縮できます。
デメリット
ソフトウェアのコストがかかる
CAEツールは高額であり、導入後も定期的なメンテナンスやアップデートにコストがかかります。
リソースのコストがかかる
大規模解析や高度なシミュレーションには高性能なコンピュータやリソースが必要となります。
技術者のスキルが必要
CAEツールの利用には高度なスキルを持つ技術者が必要なため、技術者教育や研修などが必要となります。
CAE解析結果が実現できるとは限らない
CAEツールの利用によって精度の高い解析結果を得ることができますが、あくまでもシミュレーション上の結果です。製品化できるかどうかは実際に作ってみないとわかりません。
モデルベース開発(MBD:Model Based Development)とは
モデルベース開発(MBD:Model Based Development)では、システム全体をモデル化して「動く仕様書」となるモデルを作成します。その作られたモデルを使ってシミュレーションと検証を繰り返し、設計や開発を進めていきます。MBDではシステムの仕様や動きがモデルによって表現され、開発プロセス全体で利用されます。
CAEとMBDの適用シーン
MBDの適用シーン
- 大規模システム開発の初期段階でフェーズ毎の性能目標をおおまかに決定する
- モデルと組み合わせてシミュレーションを行う(MILS:Model In the Loop Simulation)に利用する
- 電気ドメインと熱ドメインなど相互作用のある物理ドメインを確認する場合。たとえばバッテリ温度が上昇すると内部抵抗値が上昇して電圧が低下する現象など
CAEの適用シーン
- 単一性能の詳細なシミュレーション
- 3次元形状のミュレーション
- CADデータと連携したシミュレーション
領域も適用シーンも異なるMBDとCAEですが、システム全体の中で詳細検証する領域をCAEでシミュレーションする場合など、組み合わせて適用するシーンも存在します。たとえば車両システムのモデル全体はMATLABなどで構築し、エンジンモデルのみを3D-CAEツールを利用するなど、より開発方法の選択肢を増やすことができます。
しかしながら、MBDの専門知識を有するエンジニアはまだまだ不足しているのが現状です。だからこそ、エンジニアとしての将来を検討する際、選択肢のひとつとして検討する価値があると言えます。