モデルベース開発におけるACGとは?
モデルベース開発におけるACGとは
モデルベース開発(Model-Based Development, MBD)とは、システムやソフトウェアの設計・開発において、シミュレーション可能なモデルを用いて開発を行う手法です。ACG(Automatic Code Generation:自動コード生成)は、MBDのプロセスの一環として、設計したモデルから自動的にソースコードを生成する技術です。
従来、ソフトウェア開発では設計をもとに手作業でプログラムを記述する必要がありましたが、ACGを活用することで、設計モデルから直接コードを生成し、実装の効率化と精度向上を実現します。
ACGを活用するメリット
ACGを活用するメリットには下記のようなものが考えられます。
開発効率の向上
ACGを導入することで、開発プロセスの効率が飛躍的に向上します。
- 設計から実装までの時間短縮:モデルから直接コードを生成できるため、手作業によるコーディングが不要になり、開発期間を短縮できます。
- 反復開発の強化:モデルをベースにシミュレーションを行いながら設計変更が可能で、変更後も短時間でコード生成が可能です。
- ソフトウェアの再利用性向上:一度作成したモデルを異なるプロジェクトやプラットフォームで再利用しやすくなります。
エラー削減と品質向上
ACGを活用することで、コードの品質が向上し、バグの発生を抑えることが可能になります。
- ヒューマンエラーの削減:手作業によるコーディングミスを排除し、設計と実装の一貫性を確保します。
- 自動テストと統合しやすい:MBDでは、HILS(Hardware-in-the-Loop Simulation)やSILS(Software-in-the-Loop Simulation)などのテスト環境を活用し、実装前の段階で問題を発見できます。
- コードの信頼性向上:ACGツールは最適化されたコードを生成するため、効率的かつ高品質なソフトウェアを開発できます。
モデルとコードの一貫性確保
モデルベース開発では、設計モデルがそのままコードへと変換されるため、仕様と実装の乖離が発生しにくくなります。- 設計の意図が反映されやすい:手作業のコーディングでは設計意図が誤って解釈される可能性がありますが、ACGでは設計そのものがコード化されるため、仕様と一致しやすくなります。
- 保守性の向上:モデルとコードが連動するため、後々のメンテナンスが容易になります。
- ドキュメント作成の簡素化:モデルがそのまま仕様書や説明資料として活用できるため、追加のドキュメント作成負担が軽減されます。
モデルベース開発でACGを活用するために必要なスキルとは?
ACGを活用するためにどのようなスキルが必要なのかを3つの観点から紹介します。
制御理論と数値解析のスキル
まずは制御理論や数値解析の基礎知識が欠かせません。モデルベース開発では、システムの振る舞いや物理的な変化を方程式やブロック線図で表現してシミュレーションします。ただツールを使ってコードを生成するだけでは、実際のハードウェアや制御対象がどのように動くのかを十分に理解できない恐れがあるためです。
- 制御工学の基礎:PID制御や状態空間モデルなど、制御工学の基本的な理論を理解しておくと、モデルの安定性や応答特性を判断するときに役立ちます。
- 線形代数や微分方程式の理解:MBDでは、物理システムを数式化する場面があり、線形近似や方程式を使いこなせると、モデルの妥当性を確かめるときに有益です。
シミュレーションで得られた結果に対し、数値解析的なアプローチを行いながら最適な制御パラメータを探す作業もよく発生します。そのため、統計や誤差解析などの考え方を理解しておくこともおすすめです。
ツール操作とプログラミングの知識
次に欠かせないのは、MBD専用ツールの操作やプログラミング言語のスキルです。ACGを使いこなすには、モデルを正しく記述し、生成されたコードを検証・微調整するための基礎が必要になります。
- MATLAB/Simulinkなどの操作:MBDの現場でよく使われるMATLABやSimulinkなどのソフトウェアの操作に慣れておくと便利です。ブロック線図の作成やパラメータ設定、ライブラリ機能を使いこなす練習をしておくとよいでしょう。
- C言語やC++など組込み向け言語への理解:ACG機能で生成したコードをそのまま使うにしても、一部手直しするとしても、最終的にはターゲットマイコン上で動くプログラムになります。C言語やC++、場合によってはPythonなど、複数の言語に関する知識を身につけておくと安心です。
- ターゲット環境への知識:コードが正しく動作するには、マイコンやOSの特性、ビルド環境のしくみなども把握しておく必要があります。メモリ制約や実行速度への配慮が欠かせません。
これらツール操作やプログラミングスキルをしっかり身につけておくことで、モデルの作成から検証、ACGによるコード生成までをスムーズに行えるようになります。
トレーサビリティと品質管理を意識
モデルベース開発では、動く仕様書である「モデル」を中心に開発を進めるため、設計と実装の対応関係がわかりやすいというメリットがあります。ただ、それを活かすには作業工程全体で品質管理やトレーサビリティに気を配り、モデルを適切にアップデートする意識が大切です。
- モデルとコードの対応関係を管理する技術:モデルに修正を加えたとき、その変更がコードへ正しく反映され、ドキュメントに矛盾が生じないよう管理することが大切です。
- バージョン管理やレビュー体制:チーム開発では、メンバーが作成したモデルを共有したり、新しいブロックを追加したりします。誰がいつ変更し、どう影響するかを把握するため、バージョン管理システムの利用やレビュー体制の整備が必要です。
- テストケースの整備と自動化:故障を意図的に発生させるフォールトインジェクションや、要求仕様に基づいたテストを多数行うことで、システム全体の品質を高めます。テストを自動実行できる環境があると、手戻りも減らせて便利です。
ACGを活用すると、人が手でコードを書く部分が減り効率化が進む反面、モデルの設計やテスト工程がより重視されます。ここでトレーサビリティや品質管理をおろそかにすると、後の工程で大きな手戻りが起きるかもしれません。しっかりと準備を整えておけば、ACGの恩恵を最大限に享受できるはずです。
モデルベース開発エンジニアという職業の魅力
モデルベース開発エンジニアという仕事の魅力についてお伝えします。
さまざまな業界で需要が高まっている
モデルベース開発は、自動車業界での導入が進んだ歴史がありますが、近年では航空・宇宙、産業機器、医療機器など多様な分野にも広がっています。制御の高度化が必要な業界では、MBDのメリットが大いに活かされるからです。
- 自動車業界だけでなく先端技術分野でも活躍:EVや自動運転、ロボット、AIなどとの連携も期待できます。モデルを用いることで試作コストや時間を削減し、品質を向上させるため、エンジニアの需要はますます増えていくでしょう。
- 大きなプロジェクトを経験できる:世界中のメーカーが積極的に取り入れている手法なので、大規模かつ最先端のプロジェクトに携わるチャンスがあります。
MBDとACGのスキルを高めると、活躍の舞台はさまざまな業界に広がります。職業としての安定性や将来性が高いのは、大きな魅力と言えるでしょう。
学習効果が高く、キャリアアップにつながる
モデルベース開発エンジニアの仕事は、シミュレーションツールや自動コード生成の仕組み、制御工学の知識などが融合していて、継続的にスキルアップする機会に恵まれています。
- 複数分野の知識を身に付けられる:ソフトウェア開発だけでなく、ハードウェアや物理現象の理解、数理モデル設計のノウハウなど多彩な要素を吸収できるため、市場価値を高めやすいでしょう。
- プロセスを継続的に改善できる:MBDの真髄は、モデルを資産として再利用し続ける点にあります。開発プロセスそのものを改善する立場を目指せば、製品の品質向上や効率化にも大きく貢献できます。
- 幅広い連携で視野が広がる:制御設計・ハードウェア担当・ソフトウェア担当など、多職種のメンバーと協力する機会が多いのも特徴です。コミュニケーション力が磨かれ、マネジメント面でのキャリアパスも見えてくるかもしれません。
このように、モデルベース開発エンジニアは自分の専門性を高めつつ、多方面のスキルを習得しやすい仕事です。組織や業界を横断して活躍しやすく、将来にわたってニーズが続くことも大きな魅力です。
自動車業界だけでなく、検証のために広い場所を必要とする建設機械や航空機業界など頻繁な検証が難しい現場でもモデルベース開発が進んでいます。今後も実機を使わずに詳細なシミュレーションができるモデルベース開発のニーズがますます増加することが予想されています。
2021年には日産やトヨタなどの自動車メーカーや自動車部品メーカーによって2021年にMBD推進センター(JAMBE)が立ち上げられました。これは経済産業省による「自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会」でまとめられた「SURIAWASE2.0」を継承したものですが、現在ではMBDの全国普及を目指し、東芝デジタルソリューションズ株式会社、日本マイクロソフト株式会社など様々な企業が参画しています。
しかしながら、その専門知識を有するエンジニアはまだまだ不足しているのが現状です。
エンジニアとしての将来を検討する際には、若手エンジニアへのモデルベース開発技術の教育に力を入れているAZAPAエンジニアリング株式会社のような企業は、今後の活躍の場を広げるためにも、注目すべき企業だと言えるでしょう。