MBDに対する行政機関の取り組み
モデルベース開発の導入が進む自動車業界
モデルベース開発(MBD:Model Based Development)はシステムを構築する制御/制御対象をモデル化して「動く仕様書(モデル)」を作り、シミュレーションと検証を繰り返しながら、設計・開発を進めていくという手法です。
自動車の自動運転、横滑り防止装置(ESC)、衝突被害軽減ブレーキなど、自動車に搭載される機能は、ますます高度になり、それに伴って制御システムや車の構造も複雑化しています。限られたリソースの中で開発コストの増加、開発サイクルの短縮をするために、モデルベース開発は必要不可欠なものになりつつあります。
MBDの普及と推進をすすめるMBD推進センター
一般社団法人 MBD推進センター(JAMBE:Japan Automotive Model-Based Engineering center)は、モデルベース開発(MBD)を全国の自動車産業に普及するために、自動車メーカーや自動車部品メーカーによって2021年9月に立ち上げられました。2015年から経済産業省の主導で進められてきた自動車産業でMBDを普及させる取り組みを民間主体で継承するというものです。
研究会には日産自動車、トヨタ自動車、本田技術研究所、マツダなどの自動車メーカー、サプライヤーのデンソー、アイシン・エィ・ダブリュやジヤトコ、パナソニック、三菱電機、日立オートモティブシステムズ、デロイトトーマツコンサルティング、AZAPAなどの企業が参加しています。
「SURIAWASE2.0」とは?
MBD普及に向けた経産省主導の取り組みは2015年にスタート。MBD研究会(自動車産業におけるモデル利用の在り方に関する研究会)を立ち上げ、組織を超えてモデルを流通させるためのインタフェースについてガイドラインを策定、ガイドラインに準拠するモデルも作成しました。そして製造業が強みとする「すりあわせ」をさらに深めるためにMBDを適用、サプライチェーン全体に普及させて競争力を高めることを狙いとする「SURIAWASE2.0」を発表しました。
それまでは企業ごとにモデルベース開発を行っていたものの、独自手法が取られていたためにデータ互換性などがなく、MBDが普及しているとは言えない状態でした。そこで、業界全体でのモデルベース開発を活用することを目的に、企業や産学間でも共通にモデルを使えるようにモデル間インタフェースを定義したガイドラインを発表したのです。
「次世代自動車等の開発加速化に係るシミュレーション基盤構築事業」とは?
自動車産業における新しい技術や製品の開発を促進するための事業の一つで、2018年から2020年まで経済産業省が実施した事業です、このプロジェクトの目的は、次世代の自動車や自動車関連技術の研究開発を支援し、新製品の市場投入を加速するためのシミュレーション基盤を構築することです。
具体的には、次世代の自動車技術やコンポーネントの設計、開発、テスト、評価、シミュレーションに関連するプロジェクトで、実機を使用せずに車両全体をシミュレーションで評価できるように車両評価性能モデルを構築する。そして、その開発プロセス(すりあわせ)の深化を促すというものです。大学や高専等の知見なども活用し、自動車メーカー、部品メーカー、研究機関、政府機関などが連携して自動車産業への新たな技術の導入を支援することを狙いとしています。
MBD推進センターの活動や展望
MBD推進センターの活動
MBD普及の推進
MBD推進センターはMBDを広めることが主要な活動であり、これにはMBDの概念、方法、ツールに関する啓蒙活動、研究・開発プロジェクト支援、ベストプラクティスの共有なども含みます。MBDの利点や実装方法に関する情報を産業界や研究機関に提供し、MBDの普及を推進しています。
トレーニングと教育
エンジニアや開発者のスキル向上をサポートするトレーニングプログラムや教育イニシアティブを提供します。MBDツールやプロセスを効果的に活用するためにトレーニングを提供し技術者を育成します。
プロジェクトの支援
MBDを採用しようとするプロジェクトや企業に対し技術的なサポートやアドバイスを提供します。
研究・開発
MBDに関する研究と開発を支援し、新たな技術やツールの開発を促進します。これによってMBDの進化や革新が進み、より効率的で高品質な開発プロセスが実現されます。
イノベーションと競争力
MBDは新製品やサービス開発において効果的な手法であるため、MBDを活用した新たなイノベーションを促進し、企業の競争力向上を推進します。
MBD推進センターの展望
MBD推進センターは、今後もMBDの採用と発展を継続的に支援し、自動車産業や他の産業におけるモデルベースの普及を奨励する役割を果たしていくでしょう。MBD推進センターでは数年ごとに目標を掲げており、2031年以降までの目標は以下のようになっています。
- 2021~2023年:MBD立ち上げ期
主要OEM/大手部品メーカーでMBDが普及し、中小部品メーカーでもMBDの認知が拡大する。 - 2024~2030年:MBD拡大期
OEM/大手
部品メーカーだけでなく中小部品メーカーでもMBDの普及が加速し、効率化が実現される。 - 2031年以降:MBD安定自走期
:エンジニアリングチェーン全体がモデルで有機的につながり、次々に新しい価値が創造される。
企業がこれらのMBD導入における課題を克服するためには、戦略的なアプローチが必要となります。企業や組織は技術的なトレーニングと教育を提供し、組織や文化変革をサポートできるようなリーダーも育成しなければなりません。
さらに、適切なツールやリソースの選定、モデルの信頼性と正確性の確保、バージョン管理プロセスの整備、予算と資源の適切な確保など、各課題に対する具体的な計画を策定することも重要です。
しかしながら、MBDの専門知識を有するエンジニアはまだまだ不足しているのが現状です。だからこそ、エンジニアとしての将来を検討する際、選択肢のひとつとして検討する価値があると言えます。MBD推進センターに参画し、その基準となるモデルを開発したAZAPAエンジニアリングなど、エンジニア育成に力を入れる企業への期待がますます高まっていくと言えるでしょう。
sponsored by AZAPAエンジニアリング株式会社

利点や実装方法などを
産業界や研究機関に提供する
「一般社団法人MBD推進センター」とは、モデルベース開発は経済産業省の主導で進められてきた普及への取り組みの延長線上にある団体です。トヨタや日産、マツダなど多くの企業が参加し、MBD開発の共同研究がおこなわれています。

市原 純一氏
自動車技術会のモデル流通検討委員の幹事を行いながら、制御開発、モデル開発を行う。MBD推進センターのガイドラインや、準拠モデルの開発にも携わる。
【所属・役職など】
・AZAPA株式会社 取締役
・ MBD推進センター 会員
・モデルベース大学 講師
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