MBDに必要とされるソフトウェア
自動車業界を中心に導入がすすむモデルベース開発
自動車業界などの製造業では新製品をスピーディに提供するために開発期間が短縮され、開発規模の拡大などによって数多くの試作品が必要とされています。
モデルベース開発(MBD:Model Based Development)は、システム制御や制御対象をモデル化し、そのモデルを使ってシミュレーションしながら検証、設計、開発を進めていく手法で、自動車業界を中心に活用がすすめられています。MBDを活用することで、複雑なシステムやソフトウェアの設計、開発、検証を効率化できるだけでなく、生産性や品質の向上も期待できます。
効率よくモデルベース開発ができるMBDツール
自動車開発など、製造業での開発はV字プロセスモデルに沿って進んでいきます。V字の左側が設計プロセス、右側が検証プロセスとなります。
たとえば、自動車の設計をする場合、設計プロセスではシステム設計、ユニット設計、部品設計と細分化されていき、試作を作成し、検証プロセスでは部品検証、ユニット検証、システム検証と進んでいきます。モデルベース開発はMBDツールを利用することにより、さらに効率よく開発を進めることが可能となります。
V字プロセスにおける3つのモデルMILS・SILS・HILS
MBDを利用する上で重要となるのがMILS・SILS・HILSの3つのモデルです。シミュレーションを繰り返して開発を行うモデルベース開発(MBD)ではMILS・SILS・HILSの3つのモデルをV字プロセスに適用することで開発工数を大幅に削減することが可能となります。
開発初期に適用するMILS
MILS(Model in the Loop Simulation)は開発の初期に適用します。開発開始直後で、まだシステムの詳細が未確定な時期に利用すると効果的です。MILSは制御対象モデル(プラントモデル)と制御モデル(コントローラモデル)のシミュレーションで、ここではモデル間のインターフェースを決定していきます。
開発の初期でのMILSは制御ロジックや全体的なシステム設計について机上で考えることができるというメリットがあります。
SILSは開発途中のロジック検証で利用
SILS(Software In the Loop Simulation)はプラントモデルとC言語などのプログラムで書かれたコントローラとのシミュレーションです。MILSの制御ロジックから生成されたプログラムが目的とする制御を実現できているかどうかの確認をします。
開発後期に適用するHILS
HILS(Hardware In the Loop Simulation)はプラントモデルと汎用制御装置(ECU:Electric Control Unit)によるシミュレーションで実機の検証を行います。故障診断など実機を使った検証が難しいケースでも、ECUを使えば様々なパターンの故障を再現した検証が可能になります。
実際のプラント制御のようなリアルタイムシミュレーションが要求されるため、HILSでは高速な計算機が必要となります。
モデルベース開発(MBD)によく使われるツール
MATLAB/Simulink
アメリカ合衆国のMathWorks社によって開発されたMATLAB(マットラブまたはマトラボ)とSimulinkは自動車業界でよく利用されています。MILSやSILSでの制御モデルとプラントモデルのシミュレーションで使われることが多いです。
MATLABはMathWorks社が開発している数値解析ソフトウェアと環境、および利用されるプログラム言語をさします。ベクトル演算、行列計算、グラフ化、3次元表示などの多くのライブラリを持ち、グラフィカルインターフェース、C言語/C++/Java/Pythonとのインターフェース機能などを持ち、追加オプションで様々な機能拡張を行うことができます。
Simulinkはモデルベースのためのブロック線図環境で、組み込みシステムのシミュレーション、自動コード生成などを行います。図式化されたブロック線図という表現を使うので内容を理解しやすく、簡単に処理変更やチューニングができるのでアルゴリズムの最適化や品質向上が期待できます。
Amesim
AmesimはドイツのSiemens社によって開発されたモデリングツールです。燃料電池、油圧流体ドメインのライブラリが標準で用意されているので燃料電池(FCV:Fuel Cell Vehicle)開発や油圧設計に利用しやすいです。エンジン、バッテリなどのパワートレイン領域だけでなく車両全体の開発にも向いています。
GT-SUITE/GT-POWER
アメリカ合衆国のGamma Tecjhnologies社によって開発されたモデリングツールです。燃焼室まわりに特化したライブラリが用意されているので、パワートレイン領域、ヒートポンプサイクルや冷凍サイクルなどの空調領域のMBVでよく利用されています。
「AI-Modeling」は自然言語と数式で書かれた仕様書から自動でSimulinkモデル(制御モデル)を作成し、モデルの配置や結線作業も自動で行える制御モデル生成効率化ツールです。質の高い制御モデルを効率的に作成することができます。またSimulinkモデルから自然言語で書かれた仕様書を自動生成することも可能です。
「AI-Matrix」はマトリックス形式(DSM)を使いSimulinkの制御モデルの構造の見える化や評価を行うことで、構造最適化をサポートするモデルベース開発支援ツールです。ブロックや実行行数の多さ、階層の深さなどを評価指標ごとに数値化して構造の判定をします。
その開発・提供をするAZAPAエンジニアリング株式会社は、若手エンジニアへのモデルベース開発技術の教育に力を入れられています。エンジニアとして今後の活躍の場を広げるためにも、注目すべき企業だと言えます。