モデルベース開発（MBD）の目的

そもそもモデルベース開発とは？

モデルベース開発（MBD：Model Based Development）とは、システムを構築している制御や制御対象をモデル化して「動く仕様書」となる「モデル」を作り使ってシミュレーションしながら検証を繰り返し、設計・開発を進めていくという手法です。

設計工程での検証ができることから検証工程での手戻りが少なくなり開発工数の短縮と品質向上が可能となります。また、検証工程においても検証環境のモデル化によって様々な検証が可能となります。

既に車載システムなど自動車業界では一般的な手法となってきていますが、制御とシミュレーションが重要となる分野であるロボット開発、医療機器、エネルギー関連産業などでのモデルベース開発の活用も進んでいます。

モデルベース開発の必要性

自動車業界だけでなく、さまざまな業界でモデルベース開発（MBD）が注目されているのは以下のような理由があります。

開発コストの増加

自動車業界など製造業界では、年々、開発規模が大きくなり、数多くの試作の作成が求められるようになっています。最近では電子部品が多用されているため、その開発コストも必要となります。また、開発後期の実機検証で仕様レベルミスが発生した場合には大きな手戻りとなります。

モデルベース開発では、開発前期で繰り返してシミュレーションを行えるので、開発後期の不具合が事前に検証でき手戻りの抑制ができます。

開発期間の短縮

新しい製品をスピーディに市場に提供するために開発期間が圧縮され、開発サイクルがますます短くなっています。これまでの開発手法では検証をするためにハードウェアを製作する必要がありました。ハードウェア製作が遅れるとソフトウェア検証工程も遅れてしまいます。

また人間が作成した仕様書を基にプログラミングを行うため、工数が必要となります。 モデルベース開発では、仕様書の作成やプログラミングを自動で行えるため、開発スピードの向上が期待できます。

モデルベース開発の工程

モデルベース開発（MBD　Model Based Development）では、MATLAB/Simulinkなどの専用ソフトウェアを用いて作られるモデルを使って開発を進めます。従来型の開発では試作機を製作してからでなければ検証できなかったことが、早期にモデルを使ってシミュレーションできます。

従来型の開発プロセス

従来型の開発では、人間が作成した紙の仕様書からコーディングを行い、プロトタイプ（実機）作成後にハードウェアでの検証を行っていました。

システム開発開始から終了までの流れを表した「V字プロセス」では右側の検証過程を繰り返すため、検証の時間が多く必要となり、検証用のハードウェアも必要となります。

モデルベース開発プロセス

モデルベース開発では、動く仕様書である「モデル」を使って設計時にシミュレーションで検証を行います。右側の検証過程の工数が少なくなり、設計段階の工数が増えます。

開発後期の手戻りが減るので全体的な効率アップが期待できます。従来型開発プロセスとは異なる工程としてMILS、RCP、ACG、SILS、HILSなどがあります。

MILS（Model In the Loop Simulation）

MILSは開発ターゲットの制御装置（ロジック）と制御対象のモデルと組み合わせ机上でシミュレーションを行う手法で、開発上流工程で制御仕様などを決定します。制御装置（ロジック）をコントローラー、制御対象をプラントと呼ぶことが多く、コントローラーもプラントも全てモデルで構成されます。

全てがモデル化されるため自由にシステム構成やパラメータ変更ができ、システムの振る舞いもコンピューター上で、すぐに確認することができます。検証機材の破損などを気にせずに大幅な設計変更や条件設定ができるので、色々な試行も可能です。

MILSによって早期に机上検証が行えることから設計の手戻りを少なくできます。しかし、全て仮想であるため、ハードウェアが原因となるエラーや、実行時間に関係する項目などは検証できません。

SILS （Software In the Loop Simulation )

実際に汎用制御装置（ECU：Electric Control Unit）のマイコンに実装するコードを使うシミュレーションをSILSといいます。制御ロジックの検証に強く、ソフトウェアの動作確認ができます。

RCP（Rapid Control Prototyping）

RCPは制御モデルに汎用コントローラをつないで、制御設計最適化を行う手法で、プラントモデル（制御対象モデル）が想定通りになっているかどうかの検証などに用いられます。

自動車開発の場合では、トランスミッションや汎用エンジンに制御モデルを接続し動作確認をします。モデルシミュレーションだけでは確認できなかった項目のチェックができ、必要な機能を詳細に洗い出すことができます。

ACG（Automatic Code Generation）

ACGはコードを自動生成するプロセスのことで、MATLAB/Simulinkなどのモデルベース開発ツールを使用して行います。人手を必要とせずに自動生でプログラム生成できますが、意図していなかったコードが生成されることもあるので、通常はレビューを行って細部調整を行います。

HILS（Hardware In the Loop Simulation）

HILSは、MILSで作成されたシステムモデルの一部をハードウェアに置き換えてシステムの検証を行う手法であり、使用するリアルタイムシミュレータ（専用ハードウェア）自体のことも指します。装置を制御するECU（Electric Control Unit）検証のために、入出力インターフェースを持つHILシミュレータにモデルを実装して使います。

MILSによる検証では全てをモデルで行うため、物体運動による摩擦係数変化などモデルでは記述できない要素が存在しますが、このような要素を含むモデルを、専用ハードウェアで実装して検証することができます。

HILSによってECUを試作機完成前にテストすることで試作機製作コストが削減できます。また、異なるプログラムを短時間で試行することで実機評価後の手戻りを減らすことも可能となります。

MBD推進センターとは

各参画企業（会員）による共同研究事業として活動する一般社団法人 MBD推進センター（JAMBE：Japan Automotive Model-Based Engineering center）は2021年9月に設立されました。

2015年度から経済産業省主導で「自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会」として活動、自動車産業におけるモデルベース開発の産学官共同戦略的プロジェクトの方針「SURIAWASE2.0の深化」を民間主体で継承、高度なモノづくりを手戻りなく行える開発コミュニティの実現を目指しています。

研究会にはトヨタ自動車、日産自動車、本田技術研究所、マツダなどの自動車メーカー、サプライヤーのデンソー、アイシン・エィ・ダブリュやジヤトコ、三菱電機、パナソニック、日立オートモティブシステムズ、デロイトトーマツコンサルティング、AZAPAエンジニアリングなどの企業が参加しています。

MBD推進センターの基本理念

モデルベース開発技術を広く普及展開し、モデルを用いた高度なすり合わせ開発（SURIAWASE2.0）を実現することにより、日本の自動車産業の国際競争力向上に貢献する

MBD推進センターの事業概要

【MBD普及推進】 MBD普及に係る各機関の横串機能と情報の一括発信
【モデル流通推進】 ガイドラインの構築と国内諸活動のワンボイス化による国際連携窓口機能
【共通課題解決領域の拡大】 新たな共通課題の設定による各社困りごとの解決

MBD推進センターのビジョン

• カーボンニュートラル対応やCASE等の車両技術革新をMBDで推進しSDGsに貢献する
• すべてのプレイヤーが規模の大小を問わずモデルでつながり高効率な研究開発を推進している

MBD推進センターの運営会員企業（活動開始時）

株式会社アイシン、ジヤトコ株式会社、株式会社SUBARU、株式会社デンソー、トヨタ自動車株式会社、日産自動車株式会社、パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社、本田技研工業株式会社、マツダ株式会社、三菱電機株式会社　（10社）