MBDが向き・不向きな領域
モデルベース開発には向き・不向きがある
システムをモデル化し、実機を使わずシミュレーションを行って開発を行うモデルベース開発(MBD:Model Based Development)は自動車業界を中心に導入が進んでいます。
しかし、すべてのシステムに向いているかというと必ずしもそうではありません。モデルベース開発には向いている分野と不向きな分野があります。
モデルベース開発導入が進む自動車業界
現在、モデルベース開発の導入を積極的に進めているのは自動車業界ですが、世界に目を移すと、自動車だけでなく航空・宇宙産業への導入も進んでいます。安全性担保のために、ありとあらゆる状況を想定した制御の検証が必須とされる業界に共通するのは制御とシミュレーションです。
MBDでは開発プロセスに導入されたシミュレーションによって実機での試作を減らすことができ、開発期間の短縮と開発コストの削減が期待できます。
また、実機検証では網羅できないようなシミュレートも可能であるため、システム品質や安全性も向上します。数多くの試作とシミュレーションを繰り返す必要がある分野に向いているモデルベース開発は、今後、医療機器、物流機器、ロボット、鉄道などへの採用が進んでいくと考えられています。
モデルベース開発が向いている領域
実績計測データが充実している分野
長年にわたって実機により計測されたデータが蓄積されているような領域はモデルベース開発が向いています。たとえばエンジンを内製している自動車メーカーであれば、膨大な量のエンジン計測データが蓄積されています。エンジンの物理特性は計測データが多ければ多いほど明らかになるのでモデルベース開発向きといえます。
線形特性が強い分野
線形特性とは、システムが入力に対して比例した出力を示す性質を指し、測定値が期待する範囲内で一定の精度を保つことを意味します。金属材料など、線形特性を持つ領域での利用には、モデルベース開発が適しています。線形特性がある程度近似となれば、重回帰分析や単回帰分析でモデル化が可能となるからです。
モデルベース開発不向きな領域
化学反応が関係する分野
エンジンのシリンダー内部の燃料現象(ディーゼル、ガソリンと酸素との化学反応)や電気自動車のバッテリーの酸化還元反応など、化学反応が関係する領域はMBDに向いていません。原子や分子の現象である科学反応をモデル化することは難しいからです。
光学分野
顔認証や物体認証などコンピュータに人間と同じような視覚認識機能を持たせる「コンピュータビジョン」は、AI技術や画像処理を応用させた分野で現在盛んに研究が進んでいます。
これまで人間が行ってきた検査や組み立て工程を自動化する技術ですが、この光学領域をモデルベース開発することは非常に難しいです。波の特性を持つ光は物体にあたって反射して届くこともあれば、光源から出た光が直接届くこともあり、間接光と直接光の切り分けが困難であるからです。
人の感性が関係する分野
人間の感性に関わる領域はモデルベース開発が難しい領域です。たとえば、車の乗り心地、シートの座り心地など、人間が実際に車を運転したり、シートに座ったりして評価するものをモデル化してシミュレートすることは難しいです。それは個人だけでなく、女性と男性、大人と子供、欧米人とアジア人など、人間によって感性が全く異なるからです。
非線形特性の強い分野
自動車のタイヤの摩擦特性などは非線形特性が強いためモデル化することが難しいです。直進安定性、乗り心地などの運動特性はタイヤの非線形特性と人間の感性に依存するため、モデルベース開発が向いていません。
制御を伴わない分野
スマホアプリや事務用ソフトなど制御を伴わずユーザインターフェース(UI)がメインとなるソフトウェア開発は、今のところモデルベース開発が不向きな領域といえます。しかしモデルベース開発の標準的ツールであるMATLABにはディープラーニング機能が備わっているので、将来的にはAIと連動したモデルベース開発も導入される可能性があります。
※MATLABは世界中の科学者やエンジニアがモデル作成、アルゴリズム開発、データ解析に使用している数値計算プラットフォームでありプログラミング言語でもあります。アメリカ合衆国のMathWorks社によって開発されました。
自動車業界だけでなく、検証のために広い場所を必要とする建設機械や航空機業界など頻繁な検証が難しい現場でもモデルベース開発が進んでいます。今後も実機を使わずに詳細なシミュレーションができるモデルベース開発のニーズがますます増加することが予想されています。
2021年には日産やトヨタなどの自動車メーカーや自動車部品メーカーによって2021年にMBD推進センター(JAMBE)が立ち上げられました。これは経済産業省による「自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会」でまとめられた「SURIAWASE2.0」を継承したものですが、現在ではMBDの全国普及を目指し、東芝デジタルソリューションズ株式会社、日本マイクロソフト株式会社など様々な企業が参画しています。
しかしながら、その専門知識を有するエンジニアはまだまだ不足しているのが現状です。
エンジニアとしての将来を検討する際には、若手エンジニアへのモデルベース開発技術の教育に力を入れているAZAPAエンジニアリング株式会社のような企業は、今後の活躍の場を広げるためにも、注目すべき企業だと言えるでしょう。