2030年の日本の自動車業界を担うモデルベース開発(MBD)とは何か
モデルベース開発(MBD)とは?
自動車産業を中心に導入がすすむモデルベース開発(MBD:Model Based Development)は、システムを構築する制御や制御対象をモデル化して「動く仕様書」を作り、モデルをつかってシミュレーションしながら、設計・開発、検証を進めていく手法です。自動運転や衝突被害軽減ブレーキなど自動車の搭載機能が高度になり、システムも複雑化する中、モデルベース開発は必要不可欠なものとなってきています。
業界ごとでもMBD標準化活動が始まっており、自動車業界では2021年7月にMBDの普及を目指す「MBD推進センター」(JAMBE)が発足し、航空機業界でも「航空機開発におけるMBD技術情報交換会」(MBAC)による標準規約の策定が進行中です。
しかし、メーカーによって要求仕様が異なるため、現状では業界を横断したMBDの活用は難しい状態です。MBD推進センターではMBD活用の統一ルールなどを記載したガイドラインや解説書の作成に取り組み、2030年には業界全体への活用を目指しています。
モデルベース開発(MBD)の目的
開発規模が大きくなることによる開発コストの増加、新製品をスピーディに市場に提供するためにおこる開発期間の短縮などからモデルベース開発の必要性が高まっています。
従来型の開発プロセスでは試作機を製作してからでなければ検証できなかったことが、モデルベース開発(MBD)ではモデルを使って早期にシミュレーションできるので、開発後期の不具合が事前に検証でき手戻りの抑制や開発スピードの向上が期待できます。
MBDが向き・不向きな領域
モデルベース開発はすべてのシステムに向いているわけではなく、向いている分野と不向きな分野があります。実績計測データが充実している分野、線形特性が強い分野などは向いていますが、化学反応が関係する分野、光学分野、人の感性が関係する分野、非線形特性の強い分野、制御を伴わない分野には向いていません。
MBDのメリット・デメリット
モデルベース開発(MBD)にはメリットだけでなくデメリットもあります。シミュレーションによる低コスト化、開発初期に詳細設計ができる、効率よく機能検証ができる、必要機能を漏れなく設計できる、自動コード生成できることなどはメリットですが、設計工数の増加、人材育成に時間がかかる、設計者の増員が必要である、などのデメリットもあります。しかし、実機を使わずに詳細なシミュレーションができるモデルベース開発のニーズは、自動車業界などの製造業界において、今後ますます増加することが予想されています。
MBDとCAEとの違い
コンピュータを利用して設計や分析を支援する技術であるCAE(Computer Aided Engineering)は、設計初期、詳細設計、検証、製造に至るまで、開発プロセスのさまざまなフェーズで適用できます。CAEを活用すれば試作や実験不要で、コンピュータ上でさまざまなシミュレーションを行うことができます。
CAEとMBDは両方ともコンピュータ上でシミュレートして検証をおこなう手法ですが、対象の規模が異なります。理想的な開発フローはシステム性能目標をモデルベース開発で決定し、各フェーズの詳細設計をCAEで行うという形です。
MBDに必要とされるソフトウェア
モデルベース開発ではMBDツールを利用することによって、さらに効率よく開発を進めることができます。
モデルベース開発(MBD)によく使われるツールには、自動車業界でよく利用されるMATLAB/Simulink(アメリカ合衆国のMathWorks社)、Amesim(ドイツのSiemens社)、GT-SUITE/GT-POWER(アメリカ合衆国のGamma Tecjhnologies社)があります。
また、MBD支援ツールとしてAZAPAエンジニアリング株式会社の「AI-Modeling」や「AI-Matrix」もよく利用されています。
企業がMBDへ取り組む上での現状課題
多くのメリットがあるモデルベース開発(MBD)ですが、企業がMBDを導入するためには課題もあります。
上流工程の工数が増える、技術者スキルが不可欠であるなどの技術的な課題、異なる部門やチーム間での協力といった組織的な課題、十分なリソースの確保や変更管理が必要、予算と資源の確保が必要、法的規制と規制要件に従う必要がある、などがあげられます。
MBDに対する行政機関の取り組み
自動車業界を中心に導入がすすむモデルベース開発(MBD)は、国や行政機関でも様々な取り組みを行っています。
自動車メーカーと部品メーカーを中心に立ち上げられた一般社団法人 MBD推進センター(JAMBE)は、経済産業省の主導で進められてきた自動車産業でMBDを普及させる取り組みを民間主体で継承するものです。2018年から2020年には経済産業省によって「次世代自動車等の開発加速化に係るシミュレーション基盤構築事業」も行われています。
Automotive SPICE(A-SPICE)とは
Automotive SPICE(A-SPICE)は、ISO/IEC 15504 および ISO 330xx シリーズに準拠した自動車規格であり、車載ソフトウェア開発プロセスにおいて定量的に測定、アセスメント、プロセス監査を見える化するためのフレームワークです。
評価はレベル0からレベル5までの6段階となっており、多くのOEMではレベル2、将来的にレベル3を満たすことが求められています。
モデルベース開発におけるMILSとは
「MILS(Model In the Loop Simulation)」は、モデルベース開発において用いられるシミュレーション方法のひとつです。制御ロジック(コントローラー)と制御対象(プラント)の全てをモデルで構成してシミュレーションを行うのが特徴で、開発の上流側で用いられています。
早い段階での動作確認を行える、自動でチェックが行えるなどのメリットがあり、さらに開発プロセスにおける早い段階で実施できることから、設計の手戻りを少なくできる方法となっています。
モデルベース開発におけるHILSとは
HILSは、「Hardware In the Loop Simulation(ハードウェアインザループシステム)」の略称で、実機を模した開発用のシミュレータのことです。自動車開発分野で取り入れられており、自動車の制御システムであるECUをシミュレーション環境のHILSと接続し、ECUの性能を確認するために使われます。開発時間の短縮やコスト削減といった多くのメリットがあります。
モデルベース開発におけるRCPとは
RCP(ラピッド・コントロール・プロトタイピング)とは、汎用の制御対象に制御モデルを接続することで、制御設計の最適化を行う手段です。自動車の開発にも用いられており、例えば汎用エンジンなどに制御モデルを繋ぐことで、動きを確認することができます。RCPを採用することによって素早くテスト環境や計測環境を構築できたり、ハンドコーディングなしでモデルを迅速に実装できたり、といったメリットが得られます。
未経験でもモデルベース開発エンジニアにはなれるのか?
モデルベース開発は、自動車業界のみならず、家電業界やロボット、医療機器などさまざまな分野で用いられている開発手法です。将来的に大きく成長していく分野といわれていることから、モデルベース開発エンジニアの需要が高まっているといえるでしょう。
こちらの記事では、モデル開発ベースエンジニアにはどのようなスキルが求められるのか、未経験でもチャレンジできるのかといった点についてまとめています。
自動車以外でモデルベース開発が用いられている分野
現在、モデルベース開発は自動車業界以外にもさまざまな分野で活用されている開発手法です。その分野としては、例えば航空機、建築機械、精密機械、エネルギー分野などが挙げられます。
幅広い業界でモデルベース開発が多く用いられるようになったことで、モデルベース開発エンジニアの需要も高まっています。
モデルベースの開発プロセス
モデルベースの開発プロセスは、システムの目的や機能を明確にする「要件定義」、全体構造を設計する「基本設計」、具体的な仕様を決める「詳細設計」、コーディング、個々のプログラムの動作を確認する「単体評価」、プログラムの連携を確認する「結合評価」、全体の動作を確認する「実機評価」という流れで進行します。テスト工程が明確で無駄がないため、効率化が可能です。
MBDとMBSEの違いとは?
MBD(モデルベース開発)は製品の設計・制御に特化したシミュレーションを重視した手法、MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)はシステム全体をモデル化して管理するものです。両者の違いやそれぞれの役割をわかりやすく解説しています。効率的な開発手法を学びたい方は、ぜひこの記事で詳しくチェックしてみてください。
モデルベース開発におけるSILSとは
SILS(Software In the Loop Simulation)は、モデルベース開発で欠かせないプロセスの一つです。MILSで設計した制御モデルを基に生成されたコードを検証し、制御モデルと生成コードの動作を一致させる重要な役割を果たします。この記事では、SILSの基本から活用メリット、自動車開発への具体的な応用までを詳しく解説しています。
モデルベース開発におけるACGとは?
モデルベース開発(MBD)における自動コード生成(ACG)は、設計モデルから直接コードを生成する技術です。これにより、開発効率が向上し、ヒューマンエラーの削減やコードの品質向上が期待できます。このページではACGの基本的な特徴やメリットなどを解説します。ACGを導入することで、効率的な開発プロセスの実現するためにもぜひ参考にしてみてください。
MBD(モデルベース開発)セミナーではどんなことが学べる?
この記事では、MBDの基本的な考え方から、セミナーでどのような内容が学べるのかを紹介しています。オンライン・対面形式の特徴やセミナー選定のポイントなどについても取り上げています。モデルベース開発を学び、実務に活かすための第一歩として、技術者・学習者にとって価値ある情報を提供する内容となっていますので、ぜひチェックしてください。